こんにちは、さいとう(@S41T0H)です。
小袋成彬(おぶくろなりあき)『分離派の夏』、今聴いてるのですが、えらくいいですね。
昨日の記事で「邦楽の洋楽化現象」の筆頭として挙げたのですが、やっぱり、良い。
というわけで今回は彼のソロ1stアルバム『分離派の夏』の全曲レビューをしていきたいと思います。
小袋成彬『分離派の夏』全曲レビュー・感想
ところで、Googleで「小袋成彬」って検索すると、サジェストに「小袋成彬 大学」とか「小袋成彬 高校」とか出てきて、そんなにみんな気になるのかなぁ……? と思います。
ちなみにWikipedia「小袋成彬」によると立教大学経営学部国際経営学科卒だそうですのでもうこれ以上調べないでくださいね。
高校も附属みたいなので同じくMARCH附属上がりの僕は親近感を感じます(笑)。
1. 042616@London
1曲目は語りのトラックとなっています。2016年4月26日のロンドンでのコメンタリーのようですね。
内容は川端康成『伊豆の踊子』に触れながら「芸術の在り方」について誰かが語っています。誰なんだろう。→小袋さんの友人らしいです。
2. Game
アルバムの一曲目はエレピとボーカルから始まる「Game」。
ラップのような韻の踏み方がなされた独特の歌詞が印象的です。
彼の高音は本当に美しい。
途中から入るストリングスがまた優美。
3. E. Primavesi
3トラック目は「E. Primavesi(イー・プリムヴェージ)」という曲。
タイトルは19世紀ドイツに実在したウィーンの女優で美術家のパトロンもしていた、Eugenie Primavesi(ユージェニー=プリムヴェージ)氏(Wikipediaドイツ語版)から取られたのでしょうか。
歌詞の「柄のブランケット まるでプリムヴェージ」は彼女の肖像画からでしょう。
この曲、ヒップホップ界随一のドラマーこと、クリス・デイヴ&ザ・ドラムヘッズのクリス・デイヴをドラマーとして招いています。
R&Bのようなグルーヴにクラシカルなインストゥルメンタルが乗る壮大な音像。
凡庸なシチュエーションでありながら俯瞰した切り口で世界を歌う歌詞が独特。
4. Daydreaming in Guam
「グアムの白昼夢」と名付けられたこの曲は、静かに始まり途中からホーンが入り歪んだギターまで入ってきて、まさにジャンルレスで面白い楽曲構成となっています。
8分音符で刻み続けるビートと執拗なまでの緻密なバスドラムの連打は邦楽ではなかなか聴くことが出来ないでしょう。
5. Selfish

YouTubeでMVが公開されているまさにリードトラックと呼ぶべきこの「Selfish」は、「自分勝手」というタイトルの通り、彼の考え方が透けて見えるような、痛々しいほどに赤裸々な歌詞となっています。
「時代に花を添えたくて 筆を執っていた訳じゃない/もう君は わからなくていい」という印象的な言葉と、その後に入る荘厳なストリングスの重奏が美しい。
とにかくメロディが美しいですよね。
久々に煙草を貰って ベランダで息を吸い込むと
昼の月が動いて見えて すべての悩みが消えてゆく
という歌詞が素敵ですね。
6. 101117@El Camino de Santiago
こちらはインターリュード(間奏曲)。
今度は2017年10月11日のスペインのカミノ・デ・サンティアゴの道での独白のようです。
こちらの語りも小袋さんの友人のもの。
7. Summer Reminds Me
洗練されたサウンドが特徴的な「Summer Reminds Me」は、リズムマシンとクランチ・ギターのアルペジオのみのイントロから始まります。
途中でランダムに入るオルガンのような不思議な音が印象的です。
終始淡々と、静かに燃えるようなテンションで曲が進行していきます。
「朝焼けを眺めて」という韻の踏み方が小気味いいですね。
8. GOODBOY
こちらは16ビートのシャッフルを叩くドラムと美しいエレピが特徴のR&Bな楽曲。オシャレ。
歌い方とか声質は少し平井堅に似ているような気がしますね。
ストリングスのアレンジが本当に美しい。
9. Lonely One feat.宇多田ヒカル
こちら、このアルバム『分離派の夏』のプロデュースも務める、宇多田ヒカルとの共演「Lonely One feat. 宇多田ヒカル」。
アルバムの中でも特にサウンドが洗練されている印象です。
必要な音は最小限で、ほとんどリズムマシンとベースとシンセサイザーだけ、という感じ。
コード進行も特殊で全体を通じて不思議なハーモニーとなっています。カッコええ……。
日本語の歌詞も英語に聴こえてきて、これはもう洋楽です。
楽曲後半ではピアノ主体の曲調にガラっと変わり、歪んだドラムまで入ってきてまるで超大作のプログレッシヴ・ロックのような壮大な楽曲構成となっているわけです。
10. 再会
このアルバムの中でも僕イチオシなのがこの「再会」。
ボーカルのほかはリズムマシンと地鳴りのようなベースだけ、という潔い編成で始まるこの「再会」は、曲が進行するにつれて複雑に変化していきます。
トラップのようなハイハットの刻みとブーミーなシンセの絡みがとてもエロい。
11. 茗荷谷にて
「茗荷谷(みょうがだに)にて」と名付けられたこの曲は、アルバムの曲中でも一番短く、iTunesでは収録時間は42秒とのこと。
前半(~0:27)ではボイスチェンジャーでフォルマントを加工された声色で「最高のNight Time」と繰り返され、後半ではエレピのシンプルな伴奏で「口を堅く閉ざして」と締める。
そして余韻を残したまま「夏の夢」へ続く。
12. 夏の夢
ハモりが美しい「夏の夢」。
アルバムタイトルである『分離派の夏』のとおり、このアルバムでは「夏」がテーマとなっている曲が多く、この曲ではまさに夏を連想させるフレーズが連発するのです。
思い出すのはタツローこと山下達郎の「僕らの夏の夢」。
そんなサマーウォーズ的世界が思い浮かぶ。
13. 門出
夏空に聳え立つ 鱗雲を見下ろして
旋回の半ばで 白い街が見えた
という歌詞から始まるこの「門出」。
独白のような、ポエトリーなライミングが展開されています。
サウンドはまるでレゲエの派生ジャンルである「ダブ」のように、リズムトラックに深いディレイが掛かっています。
トラックはヒップホップのようなシャッフルビートに荘厳なチェロの音が重なり、ジャンルレスな様相を呈しています。
そしてブツッと切れ、次の「愛の漸進」へ移る。
カセットテープを停止したように突然終わる楽曲構成は、ビートルズの「I Want You (She’s So Heavy)」やドリーム・シアターの「Pull Me Under」を連想させます。
14. 愛の漸進
アルバムを締めくくるこの「愛の漸進(ぜんしん)」は、楽曲の冒頭がサンプリングやSFX(サウンドエフェクト)を多用し、まるでビートルズの「Revolution 9」のような実験的なサウンドになっているのです。
ホワイトノイズにレゾナンスフィルターを掛けたようなサウンド(ここはSonata Arcticaの「Weballergy(ウェブアレルギー)」を連想させる)を経て、静かで甘美なパートへ遷移します。
こちらもディレイが多用され淡々と白玉で鳴るエレピの上に様々な音が重なるのです。
「だから月が綺麗」というフレーズのリフレインで終わるのも印象的でした。
アルバムを通じて感じた『分離派の夏』の概観
このアルバム『分離派の夏』は、R&B/Soulという下敷きはあっても、まさにジャンルレス・ボーダーレスといった感じになっているのです(アルバムタイトルと相反するのは狙ってでしょうか)。
音楽プロデューサーである小袋成彬がこれまでに影響を受けてきたであろう無数の音楽を複雑に分析して再構成したような、そんな感じに思えました。
頭でっかちにならずとも、鳴っている音やリズムの気持ちよさは非の打ち所がないという感じ。
彼は既に次のアルバムの構想を練っているとか。
きっと彼なら本作を、そしてリスナーの期待を軽く超えてくるのでしょう。
まだ聴いていない方、必聴ですよ、必聴。
Amazonの他、各種配信サービスでも聴くことが出来ます。
小袋成彬に似ている音楽性のミュージシャン。
宇多田ヒカル

宇多田ヒカル – あなた
本作のプロデュースを務め、フィーチャリング参加もする彼女。
本作は彼女の音楽性を多分に受けた様になっているわけです。
七尾旅人

七尾旅人 – サーカスナイト
声色や楽曲のR&Bっぽさは七尾旅人(ななお たびと)っぽくもあったりします。
あわせてどうぞ。
清竜人

清竜人 – All My Life
美しいメロディを儚い声色で歌い上げる感じは清竜人(きよしりゅうじん)を連想させます。
『分離派の夏』まとめ
小袋成彬みたいな音楽が日本で流行れば、確実に日本人の耳は肥え、海外の音楽とも対等に張り合えるようになるかもしれませんね。
流行れ、小袋成彬。
【追記】
小袋成彬と宇多田ヒカルが椎名林檎「丸の内サディスティック」のカバーをしましたね。
これもめちゃくちゃカッコいいので必聴です。
詳細は以下。

邦楽の洋楽化現象。/ 小袋成彬、MONDO GROSSO、PAELLAS等
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