※この講座は高校時代、軽音楽部のバンドで作詞作曲をしていたサイトウ(@S41T0H)が、「これから軽音楽部でオリジナル曲を作る高校生にむけて伝えたいこと」を闇雲に書いたものです。
前回までのあらすじ
軽音楽部に入ったコヤオとサスミは、音楽の神様であるニャンニャン大明神の手ほどきによって「イケてる音楽のつくり方」を学んでいる。ニャンニャン大明神にサビの重要性について説かれたふたりはさっそくサビから曲を作ってみているが……?
印象的なサビに共通する法則

は? 今回のタイトル「あたまタイトル、お尻パンチ。」ってどういうことよ。

これもイケてるJ-POPのサビに共通する王道法則ニャン。
要するにサビの最初、一言目に曲名、最後にパンチラインを歌うといいニャンね。

パンチライン?

パンチラ?

パンチラインとは、HIP-HOP用語で「パンチのような力強いフレーズ」のこと。ようするにパワーワードニャン。
その曲で一番伝えたいひとことを決めて、それを印象に残るような表現でサビの一番うしろで歌うと説得力が増すのニャン。

ナルホドね。なんとなく分かったよ。

君の良くない所は「なんとなく」で全てを分かった気になるところニャンね。
どうして印象的なサビを作らなければいけないのか。

前回から印象的なサビ印象的なサビって言うけど、なんでそもそも印象的にしなければいけないのさ。印象派なの?

ライブで演奏するにしろ、YouTubeなどで発表するにしろ、知らん曲が何度も聴かれることはそうないニャン。一回聴いて引っかからなかった曲はすぐに記憶から忘れ去られてしまうニャン。
せっかく作った曲はやっぱり誰かに気に入ってもらいたいニャンろ?

たしかに。

君たちが既に有名ならいいかもしれニャいが、まったくの無名であるミュージシャンがのし上がっていくためには「一発で覚えてもらえるような曲」を書くしかないのニャン。そのために大事なのが、印象的なサビの曲を作ることニャのニャン。わかっていニャニャけたニャろうか。

なんとなく分かったよ。

(コイツ……)
具体例を見てみよう

では早速具体例を見てみようニャン。
RADWIMPS – 前前前世

あたまタイトル:君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
おしりパンチ:むしろ0から また宇宙をはじめてみようか

映画『君の名は。』の主題歌「前前前世」ニャンな~。

これは分かりやすいね! たしかにサビ冒頭で「前前前世」というタイトルを歌って、サビの最後では「むしろ0から また宇宙をはじめてみようか」という謎フレーズを歌っている。

パンチラインだね。特に「むしろ」ってところがイイ。野田洋次郎さんの独特のワードセンスが光るフレーズだと思うわ。

この曲は映画の主題歌ってだけあって、映画の内容に沿った歌詞にすると思うニャンが、あまり歌いすぎても映画のネタバレになってしまうニャン。
そこで、主人公2人の時空を超えた運命的な出会いと別れを時間(「前世」)と空間(「宇宙」)に喩えて歌っているところも上手いニャン。
サビの最後で出てきた「宇宙」という言葉を、2番Aメロの「何億 何光年分の物語」という言葉で受けているところも流麗だニャンね。
高橋洋子 – 残酷な天使のテーゼ
あたまタイトル:残酷な天使のテーゼ
おしりパンチ:少年よ神話になれ

この曲はアニメ『エヴァンゲリオン』の主題歌ニャン。
この曲、「残テ(ざんて)」もアニメの世界観に合致した歌詞になっていて素晴らしいニャン。

(「残テ」……?)
このパンチラインは頭に残るね。「少年よ神話になれ」って……。

命令口調になっているところもポイントかしら。そこまでは事実の羅列のような感じで淡々と静的に歌詞の世界が描かれていたけれど、サビで「動的」な描写になって最後で「神話になれ」というところもドラマチックだわ。対比が美しい。

そのとおりニャンね~。
槇原敬之 – どんなときも

あたまタイトル:どんなときも どんなときも 僕が僕らしくあるために
おしりパンチ:迷い探し続ける日々が 答えになること僕は知ってるから

やっぱりマッキーは良いニャンね~。
「迷い探し続ける日々」、普通は抜け出したいものだけどマッキーはあえてそれを肯定するニャン。

前回言ってた「サビのメロディを繰り返すべし」ってのも使われているわね。一回聴いただけで曲名を覚えてしまうわ。

マッキー、すげぇ。

マッキーはJ-POPを作る上で教科書となると思うニャン。他にも「もう恋なんてしない」でも、サビの最後でタイトルとパンチラインの複合技をカマしているし、SMAPに提供した「世界に一つだけの花」でもあたまタイトル(「世界に一つだけの花」)とおしりパンチ(「No.1にならなくてもいい 元々特別なオンリーワン」)をキメているニャン。

へえ。
「おしりタイトル」パターンもアリ。

反対に、サビの最後にタイトルを持ってくる「おしりタイトル」もアリだニャン。これは演歌でよく使われるパターンニャ。
石川さゆり – 津軽海峡・冬景色


「津軽海峡・冬景色」とか、
石川さゆり – 天城越え

「天城越え」とかが有名ニャンね。

歌うめえ~。他にも和田アキ子さんの「あの鐘を鳴らすのはあなた」とかもそうだね。
Superfly – タマシイレボリューション


J-POPの例だとSuperflyの「タマシイレボリューション」もそうニャン。

こないだ結婚した人だね。

Superfly大好き! 「Bi-Li-Li Emotion」も好きだけどあれもおしりタイトルだね。

R&B系の「歌い上げる系シンガー」はおしりにタイトルを持ってくるね。
歌っていて気持ちよさそう。
エレファントカシマシ – 今宵の月のように


我輩も大好き、エレカシの代表曲「今宵の月のように」はあたまパンチ、おしりタイトルニャね。

冒頭の「くだらねえとつぶやいて 醒めたつらして歩く」はたしかに度肝を抜くほどパンチラインだね。未だかつて「くだらねえ」から始まる曲があっただろうか。

エレカシ、好き。紅白も見てたわ。
スピッツはタイトルを歌わない。

タイトルをサビで歌うのがいい、という話をしたけれど、一概にそうともいえないのがスピッツだニャン。「チェリー」「ロビンソン」「楓」では曲中に一度もタイトルが出てこないニャン。
もちろん、「春の歌」「空も飛べるはず」「君が思い出になる前に」「涙がキラリ☆」とか、サビでタイトルを謳う曲もあるニャンが……。

なんでタイトルを歌わないの? 草野マサムネさんは何を狙っているのよ。

曲名をあえて歌わないことで、聴いてる人に考えさせる効果がある気がするわ。
曲名が「チェリー」だとかわいいさくらんぼのイメージで聴くし、「ロビンソン」だと私はロビンソン・クルーソーを想起するわ。タイトルが「楓」だと、秋の落ち着いた少し切ない雰囲気が曲中に漂っている気がするわ。

(チェリーの元は「チェリーボーイ」らしいけれど、黙っておくニャン。)
そうニャね。聴いている人の想像力に任せることで、言外の意図を伝えることに一役買っているニャンね。

なるほど。
パンチラインの鉄則:「逆説的」であれ

実際に作るのが難しいのは「パンチライン」だと思うニャン。そこで心がけて欲しいのは「『逆説的』であれ」ってことニャ。

「逆説的」……? また難しい言葉をつかうな。

「逆説的」ってのはつまり、「常識とはあえて逆のことを歌う」ことニャン。論説文でも使われるテクニックニャンね。

うーん。海は普通広いし綺麗なイメージだから「海は狭くて汚い」とか、ケーキは甘いものだから「ケーキは苦い」とか、そういうことかな。

お、たしかにちょっと気になるな。「海を汚く思う理由」とか「ケーキを苦く感じる背景」とかが気になる!

A=Bであることを、あえてA≠Bとするという手順で考えるのは良いニャンね。
そうそう、そうやって「頭に引っかかる(=フックになる)フレーズ」をパンチラインとすると印象的なパンチラインになるニャンね。

こいつはすげえや。
- 印象的なサビを構成するのは「あたまタイトル、お尻パンチ。」
- それをあえて逆にしてみたり、あえてタイトルを曲中で歌わないというのもアリ。
- パンチラインに悩んだら、「逆説的なフレーズ」を考えてみよう。
軽音楽部員のための作曲講座<基礎編>その5「歌詞はドラマだ。」お楽しみに!
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