CDショップ店員が選んだ、「CDショップ大賞」が今年も発表されました。概要は以下。
メジャー、インディーズを問わず、CDショップの現場で培われた目利き耳利きを自負し、選考に際して個人的な嗜好に偏る事なく、店頭から全国に向けて発信出来るような賞をきっかけにブレイクが期待される“本当にお客様にお勧めしたい”作品を“大賞”として選出していきます。
納得のラインナップになっていたので、今回はなんと「第10回CDショップ大賞2018」に選出された作品を全てレビューしたいと思います。僕は本気です。
第10回CDショップ大賞2018 大賞受賞作品
米津玄師 『BOOTLEG』
栄えある大賞に選ばれたのはボカロ出身、ハチこと米津玄師の『BOOTLEG(ブートレグ)』。
このアルバムには米津玄師本人によるキレキレのダンスで話題になった「LOSER」や、
TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」OPとして使用された「ピースサイン」、
他にも初音ミクとのコラボ「砂の惑星」やDaokoとのコラボ楽曲「打上花火」のセルフカバー、米津玄師+菅田将暉名義の楽曲「灰色と青」などが収録されていて盛りだくさんの内容になっているわけです。
普段ジャニーズしか聴かないうちの母親が米津玄師のこのCDを買っていて驚きました。それだけ米津玄師が一般層へ普及したということでしょうね。
米津玄師といえばハチ、ハチといえば「マトリョシカ」に「パンダヒーロー」な僕ら世代としてはどう受け入れればいいのか悩むところですよね。そうでもないですか?
米津玄師の凄さを一言で言えばその「カリスマ性」。ボカロファンにも、ボカロを聴かないような一般層にも、普段洋楽を聴くような層にも刺さるオールマイティとも言える作風の進化は留まるところを知らず、リスナーはもう置いてけぼりです。米津玄師よ、どこへ行く。
米津玄師の楽曲が洋楽ファンにも刺さる理由があります。類まれなメロディセンスやサウンド・メイキング、リズムトラックの作り込みは言わずもがなですが。いま世界的にTR-808(通称ヤオヤ)と呼ばれるリズムマシン(電子的なドラムの音が出るシンセサイザーのようなものです)の音が大流行しているのですが、米津玄師のこのアルバムでも効果的に採り入れられているのです。これでしょう。
TR-808はこんな音です。
懐かしっ。ピコ太郎。
この曲で大胆に用いられているTR-808の、特にハイハットの音が、アメリカのヒップホップジャンルのひとつである「トラップ」でフィーチャーされていることから大流行しているわけです。
たとえば、これとか、
これとか。
これらの曲で使われているハイハットの音(チチチ……という高音で鳴っているシンバルみたいなやつです)が、ここ最近の楽曲を象徴する音なわけです。これが邦楽にも輸入され始めています。
去年大流行したDaoko×米津玄師「打上花火」のイントロ部分(0:44~0:59)でも聴こえますね。
『BOOTLEG』の中では「ピースサイン」、「orion」、「打上花火」の曲中で分かりやすく使われていますね。「春蕾」でも使われているかな?
このサステイン(音の伸び)の短いTR-808ハイハットを執拗に刻むスタイル。これが2018年でも流行の音になるでしょう。
tofubeatsの新曲「ふめつのこころ」でも使用されていますね。これメッチャ好きです。
準大賞受賞作品
台風クラブ 『初期の台風クラブ』
これ僕恥ずかしながら知らなかったのですが、
めちゃくちゃええやんけーーー!!!!!!!
あれ、こういうの2018年で売れていいのか? いいんですか! やったー! という感想を持ちました。
まさに60~70年代の日本語ロックを象徴するようなシンプルなコード進行にメロウなカラっとしたクリーンギター、気怠げな声で抜群のメロディを歌い上げる。
ここでビートルズやはっぴいえんどの名前を出すのは野暮ったい気がしますが……。
このベースのサウンドやローファイなドラムはもう完全に60年代の音。古い!!! 美しいコーラスワークはビーチ・ボーイズを彷彿とさせますかね。
Theピーズとか、
サニーデイ・サービスとか。そういう日本語を丁寧に歌い上げる日本語ロックが大好きだったのですが、最近ははっぴいえんどを曲解したような偽りのシティポップが巷を占拠していて、僕は少し寂しかった。いや、いわゆる渋谷系シティポップみたいなのも好きなのですが、あれらははっぴいえんどの系譜を踏んでいるとは評し難い。(具体例を出すのは控えますが、そう、あのへんです)
しかし、台風クラブはもう完全に、はっぴいえんどの系譜を踏襲した正統派シティポップ。ガチガチのガチモンシティポップなわけ。
そういえばはっぴいえんどにも「颱風」って曲ありましたね。無関係ってことないでしょう。
そして最後に台風クラブを聴こう。
はい、最高ー! シンプルでいながらよくよく聞くとシャレたギターのコードワーク。気の抜けるようなリードギターは、多分鈴木茂(はっぴいえんどのギタリスト)が弾いています。必聴。
PUNPEE 『MODERN TIMES』
耳が追いつかないと思いますが気にせず行きます。続いては新進気鋭のラッパー・PUNPEE(パンピー)の『MODERN TIMES(モダン・タイムス)』。アルバム名は言うまでもなくチャップリンの映画からでしょう。40年後のPUNPEEが若い頃を回想する(?)1トラック目から聴くとエモくていいですよ。
YouTubeにはライブ映像しかないようですが、Apple Musicで音源が聴けますので後ほどチェックしてくださいね。
上の動画ではアルバム『MODERN TIMES』から「Hero」「Happy Meal」「タイムマシーンにのって」「Renaissance」が披露されています。
PUNPEEのラップスタイルは、どちらかというと押韻(おういん=韻を踏むこと)にこだわる技巧なラップ、というよりは詞やフロウに特化しているという特徴があります。ミックスボイスのような高い特徴的な声で、特徴的なイントネーションのフロウでエモいことを歌う、ドープ。
ちなみにこのアルバムでもTR-808のハイハットが多用されていますね。
PUNPEEを一躍有名にしたのはトラックメイカーSTUTS(スタッツ)と共演した「夜を使いはたして」ですね。もう一昨年の楽曲ですがめちゃくちゃ聴いてました。韻はあまり踏まないのですが、それが味という感じですよね。ポエトリーリーディングにも聴こえるような、叙情的なライミング。
PUNPEEがQiezi Mabo(チェズマボ)と共演してた上の曲は、よくわかりません。天才です。
つづく
大賞・準大賞の3作品だけで語りすぎてしまったので、入賞作品以下は次回の記事で。
アディオス!
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